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慢性骨髄性白血病(CML)の情報サイト

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慢性骨髄性白血病(CML)は、近年治療の進歩により、多くの患者さんが病勢をコントロールできるようになりました。一方で、患者さんはこの病気と長く向き合う必要があり、「自分らしいCML治療」を選択するためにも医療従事者との良好なコミュニケーションが大切です。そこで、CMLへの正しい理解を深めるとともに、より良い「伝え方」について学ぶ、専門医とCML患者さんによる市民公開講座が開催されました。

開催日時
2025年9月20日(土)14:00~16:30

【基調講演】
これからのCML治療
~治療効果とQOLの両立を目指して~

慢性骨髄性白血病(CML)治療の主流となっている分子標的薬「TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)」。
TKIの作用機序や治療目標、見逃されやすい「Suboptimal Tolerability(サブオプティマル トレラビリティ)」と呼ばれる状態とその対応について、浜松医科大学の小野孝明先生が講演を行いました。

小野 孝明(おの・たかあき)先生
浜松医科大学 輸血・細胞治療部(血液内科)

1997年浜松医科大学医学部医学科卒業、浜松医科大学第三内科入局。2022年4月より、浜松医科大学附属病院輸血・細胞治療部部長 准教授となり、造血細胞移植センター長を兼任して務める。

写真:小野 孝明先生

CMLの病態、TKIによる治療と段階的な治療目標

慢性骨髄性白血病(CML)は、血液を作る骨髄の細胞ががん化する病気です。白血病全体の年間罹患率は10万人あたり約10~15人で、そのうちCMLは約20%であり、他のがんと比べると非常にまれだといえます[1]
CMLは、9番染色体と22番染色体の異常な転座によって生じる「フィラデルフィア染色体」が原因で、そこからできるBCR::ABL1融合遺伝子が異常なタンパクを作り出し、その働きによって白血球が際限なく増殖することで発症します。病期は慢性期、移行期、急性転化期の3段階に分かれ、放置すると進行していきます。発症は50代以降に多く、健康診断などの血液検査で慢性期に発見されるケースがほとんどです。
治療は2001年に日本に導入された「TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)」によって大きく変わりました。CMLは、BCR::ABL1から作られる異常なタンパクがATPという物質を利用して活性化し、白血球の異常増殖を引き起こします。TKIは、このATPの結合を阻害し、異常タンパクの働きを抑えます。TKI導入以前は骨髄移植が主流でしたが、TKIの普及により、現在は多くの患者さんがTKIで治療しています。
治療効果の判定には、BCR::ABL1由来のがんタンパクの活動性を数値化した「IS値」という指標を用います。治療開始時にはほぼ100%の値が、TKIの効果によって徐々に低下していきます。治療目標は段階的に設定され、主にEMR(治療3ヵ月でIS値10%以下)、MMR(1年でIS値0.1%以下)、MR4.5(IS値0.0032%以下)の3つが重要視されます。特に治療開始3ヵ月後の達成率は予後に関与し、1年でMMRに到達すれば、疾患進行のリスクが低くなり、将来的なTKI中止の可能性も高まります[2]

慢性的に続く副作用とQOL向上への取り組み

現在、TKI中止を目指す「無治療寛解維持(TFR)」が、新たな治療目標となりつつあります[3]。中止の条件は、MR4.5(IS値0.0032%以下)を2年以上維持し、TKI治療を5年以上継続していることです[2]。ただし、TKI中止に挑戦できるのは、CML患者さん全体の約5割にとどまり、そのうち約半数が6ヵ月以内に再発して治療を再開しています[4]。つまり、中止を維持できるのは全体の約3割に過ぎず、残る約7割はTKI治療を継続する必要があります。特に若年で診断された方は、数十年にわたって薬剤を服用する可能性があるため、副作用への対応が重要な課題となります。
TKIは分子標的薬ですが、実際には標的である異常タンパクだけでなく、類似する正常タンパクにも作用するため、副作用を完全に避けることはできません。一般的に治療初期の1~3ヵ月には、血球減少や貧血、皮疹、吐き気、便秘や下痢、倦怠感などがよく見られます。さらに中長期の服薬では、胸水や肺動脈性肺高血圧症、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な有害事象(副作用)が起こる可能性もあります。
注意しなければならないのは、「Suboptimal Tolerability(サブオプティマルトレラビリティ)」と呼ばれる軽度ながら慢性的に副作用が続いている状態です。医学的には治療継続の判断に影響しない程度の副作用であっても、頭痛や倦怠感が長期間にわたって続けば、QOL(生活の質)は大きく損なわれます。実際の調査では、TKI治療を受けている患者さんの約半数がQOLの低下を実感しており、この問題を見過ごすことはできません。
治療を継続するか中止するか、あるいは薬剤を切り替えるかといった判断は、患者さんごとに異なります。そのため、定期的な検査を続けながら、患者さんと主治医が十分に話し合い、個々に最適な治療方針を決定していくことが重要です。我々医師としても、より多くの患者さんがMR4.0やMR4.5といった深い治療効果を達成し、TKI中止という選択肢を持てるよう努めていきたいと考えています。

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【クロストーク】
“関係ないと思っていたこと”が、実は重要だった

写真:会場の様子

パネリスト
小野 孝明先生

イラスト

浜松医科大学
輸血・細胞治療部(血液内科)

パネリスト
患者さん① M.O.さん

イラスト

慢性骨髄性白血病患者・
家族の会 いずみの会

パネリスト
患者さん② J.H.さん

イラスト

慢性骨髄性白血病患者・
家族の会 いずみの会

MC
大慈弥 レイさん

イラスト

アナウンサー

関係ないと思っていたことが、実は重要だった

大慈弥さん
ここからはCML患者さんをお招きし、「“関係ないと思っていたこと”が、実は重要だった」と題し、それぞれの体験談から患者さんと医師がより良いコミュニケーションを築くためのヒントを探ってまいります。まずOさん、ご経験をお話しいただけますか。

Oさん
私は2023年6月にCMLと診断され、かなり副作用に悩まされました。でも、ちょっとした症状を薬の副作用だと自覚するのは難しかったですね。たとえば階段を上る時などに感じる息苦しさや足の重さも、CMLになってからは在宅勤務が増えていたので、運動不足のせいだろうと思い込んでいました。ある時、診察時になにげなく先生に話したら、先生の反応がさっと変わって、心電図やレントゲンを詳しく確認してくださいました。結果、胸水が見つかり、薬を変更することになったんです。

大慈弥さん
雑談のように伝えたことが非常に重要なサインだったということですね。Hさんはいかがでしょうか。

Hさん
私はCMLと診断される前の2年間、左わき腹に筋肉痛のような違和感がありました。でも、「大したことではないから大丈夫」と自分で判断して放置してしまったんです。CMLと診断されてから、それがCMLによる脾臓の腫れだと分かり、とても驚きました。自分で決めつけてしまうことの危うさを実感しましたね。

大慈弥さん
些細な変化については自己判断しがちですよね。小野先生、こうした患者さんとのなにげない会話が治療につながることはよくあるのでしょうか。

小野先生
そうですね。CML治療では2~3カ月ごとに採血検査を行いますが、副作用の出方は患者さんによって異なります。採血検査には現れないこともあり、患者さんのお話から副作用を疑ってレントゲンなどの追加検査を行うことも少なくありません。ぜひ遠慮せずに主治医に伝えてほしいと思います。

伝えづらい症状でも素直に伝えることの大切さ

大慈弥さん
OさんやHさんは、体の些細な変化を医師に伝えるうえで、伝わりにくかった、伝えづらかったと感じたことはありますか。

Oさん
私は、頭痛の症状を正確に伝えるのに苦労しました。口頭では説明しきれていないと感じたので、患者会のアドバイスを思い出して、いつ、どんな痛みがあったかを都度メモにとるようにしました。そうしたら先生にも伝えやすくなり、対処薬を処方していただきました。日頃からメモをとるようにし、診察前にその内容を整理しておくと、短い診察時間でも医師に必要なことをきちんと伝えられますし、お互いのコミュニケーションがスムーズになると思います。

Hさん
私は治療を開始してから脱毛に悩みました。でも、TKIの情報などを調べても、脱毛は重篤な副作用の上位には載っていなかったんです。同じように悩んでいる患者さんもいたんですが、痛いとか苦しいとかではなく、見た目に関することなので、主治医には伝えづらいという声もありました。私自身は脱毛が本当にショックで、すごくイヤだったので、思い切って先生に伝えました。先生は「頻度としては多くはない副作用」としつつも、私の気持ちを汲み取ってくださり、一緒に薬の調整を考えてくれました。現在はIS値も適度に抑えられ、頭髪も復活しています。自分の気持ちを素直に伝えることは、主治医との信頼関係の構築や治療の改善にもつながるので、とても大事だなと感じています。

小野先生
確かに、TKI治療で脱毛が起こるのは全体の10%程度と多くはありません。ですが、特に女性にとっては大きな悩みになると思いますし、「イヤだ」と思う気持ちも含めて、主治医と共有しておくことは、治療方針を決めるうえでもとても重要です。

伝えたいことを伝えるために

大慈弥さん
Oさん、Hさんのお話から、「言うほどでもない」と思っていたことでも、勇気を出して医師に伝えることの大切さがよく分かりました。Oさんからは日頃からメモをとるといったお話もありましたが、診察の場での「伝え方の工夫」や「質問しそびれないための工夫」について、さらに具体的に教えていただけますか。

Hさん
私は、抜けた髪の量をスマホで撮影したり、TKI治療と脱毛に関する記事を保存したりして、診察時にそれらを先生に見てもらいました。自分の言葉だけで説明しようとすると、どうしても主観的になりがちなので、客観的に見てもらおうと思ったんです。また、Oさんと同じく、私も何か気づいたことは都度メモをとっています。そのうえで伝えたいことや質問したいことは優先順位をつけて整理し、必ず重要なことは伝えるようにしています。治療をするうえで生活状況も大事な部分だと思うので、時間がある時には雑談も交えて話をするようにしています。

小野先生
最近は、Hさんのように写真に残してくださる患者さんが増えました。たとえば皮疹の状態など、客観的に判断する上でとても役立ちます。メモも良いですね。病院に来ると血圧が高めになるという方には、家での記録を提出していただくこともあります。近頃はアプリで血圧や症状を記録される方も多いです。

Oさん
私は、体重や血圧、睡眠や運動状況、服薬の記録をすべてまとめています。気になる症状や変化は簡潔に、できるだけ1~2ページに収めて、「5W1H」を意識して箇条書きにしています。

小野先生
体重の記録も重要ですね。TKI治療では胸水やむくみが出ることがありますので、参考になります。また、診察時間はどうしても限られます。伝えたいことが箇条書きで優先順位がつけられていると、医師側も対応しやすいかと思います。

大慈弥さん
小野先生、Oさん、Hさん、学びとなる貴重なお話をどうもありがとうございました。ご参加くださった皆さまには、明日からの診察にぜひ役立てていただければ幸いです。

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Q1:IS値を下げるために、日常生活で気をつけられることは何かありますか。

患者さんができることは限られていますが、重要なのは、毎日薬を処方通りにきちんと服用することです。よく食後に服用、食間に服用と書いてありますが、その用法を守らないと、薬の濃度が上がって副作用が出やすくなるとか、逆に濃度が下がってしまって効果が出にくいといったことが起こります。また、胃薬など他の薬と併用している場合も、TKIとの相互作用によってIS値に影響することがありますので、服用の仕方など主治医とよく相談してください。

Q2:分子標的薬を服用した場合に、副作用が発生するのはなぜでしょうか。メカニズムを教えてください。

講演でもお話ししましたが、分子標的薬であっても悪いタンパクだけでなく、よく似た形の正常なタンパクにも作用してしまいます。TKIの種類によってどの程度作用するのかは異なりますし、患者さんによっても異なります。また、副作用が現れるタイミングもさまざまで、初期に出る場合もあれば、5~6年経ってから出てくる場合もあります。何か異変を感じたら、すぐに主治医に伝えるようにしてください。

  1. 国立がん研究センターがん対策情報センター.「 がん統計 2021」.<https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/1_all.html> (参照 2025年9月).

  2. Apperley JF, et al. Leukemia. 2025; 39(8): 1797-1813.

  3. 日本血液学会. 「造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年)慢性骨髄性白血病(CML)」.

  4. NCCN Guidelines® Chronic Myeloid Leukemia Version 1.2026.